ガイガーカウンターの製作

 
 
 
 
 
 

 東日本大震災の被災者の方々に、お見舞いを申し上げます。この機会に放射線に関する理解を深めようと測定器を自作しました。製品化したり作品をお譲りすることは出来ませんが、ガイガーカウンターを自作する人々が、ネット上で情報交換しながら活動しており、部品やキットを販売したり、記録を公開したりという形で、測定器の価格高騰、情報の独占・隠蔽を防ぎ、同時に放射線に関する正しい知識を広める活動をしています。私の製作も概ね完了したので、アマチュア電子工作の底辺を広げるためにも、過去2か月間の足跡を公開することにしました。


 この測定器はガイガーミュラー管を使用しているため、β線とγ線の両方に反応するという癖があるのですが、同様の癖が多くの測定器に共通する事を知らずに、β線を過剰に捉えてしまい問題が生じているようです。私の場合も実験段階ではβ線シールドを設けていませんが、実用段階では金属製のシールドを設けました。これは必要な物だと最初に強調してから、説明に入りたいと思います。


 製作は冷戦時代のロシア製SI-3BGという5ドル程の安価なガイガーミュラー管(GM管)の入手からスタートしました。本当は校正作業用を兼ねた製品版のガイガーカウンターも買いたかったのですが、ネット詐欺にあっているうちに価格が3倍以上、納期は数ヶ月にまで延びてしてしまい、入手困難になりました。そこで、開発しながら、徐々に対応する管を増やし、中国製J406γ、ロシア製SI-22BGなどの高感度、実用的なセンサーに対応しました。これらはNew Old Stockと呼ばれ、50年も保管されていた部品で、ロシア製はebayオークションで、中国製は国内の有志の方(ちっちゃいものくらぶ様)から安価に購入いたしました。SBM-20という管を使った製作例、キットが出ています。私は予算の関係で、大きさがその半分で、感度が極端に低いSI-3BGでスタートを切りました。写真が第一号です。




 この製作の最も難しい部分は、400V前後の高電圧を作り、その中でGM管の発する2V程度の直流パルスを引き出すところにあります。


 回路は、4.5Vの電池ボックスからブレッドボード上の1.8〜3.3Vのロードロップ型3端子レギュレーターにつながっています。そのグラウンドとの間にダイオードかショットキーダイオードの下駄を履かせてVfを使って出力電圧値を変えることができます。この電圧を高圧発生回路に入れますが、私の手元には以前Apple PowerBook, iBookの液晶の修理に使った冷陰極管用インバーターが複数ありました。その中で最も小型の5V用インバーター基板を流用しました。以後の作品でもこのインバーター基板を追加購入して活用しています。画面中央の緑色の基板の手前側に低電圧を入力すると、奥側に入力電圧に応じた高圧の交流電圧が発生します。そのために基板上の出力に直列に入っているコンデンサはパスします。圧電素子(他励式)の影に1N4007という1000V耐圧のダイオードが1本隠れていて、これで半波整流し、4700pF 2KVの高耐圧コンデンサで平滑化して、1MΩのバイアス抵抗で電流を制限し、さらに10000pFの高耐圧コンデンサ2個でより平滑化してから、一番右に2つパラレルにならぶGM管のアノード側(プラス側、+の目印あり)に接続します。この時、実験中に感電しないよう、放電用のスイッチがコンデンサの奥に設けてあり、100KΩを介してコンデンサへの蓄電を2秒程度で放電するようにしてあります。実際のところGM管の高圧部分を触っても感電と言うほどの強いショックはないし、むしろある方法で触ると疑似的に信号を作れるので、その後の実験がしやすくなるのですが、識者の方にGM管の表面を汚すことで電流リークが生じるため避けることを教えていただき、やめました。


 GM管は買ったとき箱入りだったのですが、買った店のシールが貼られているということは開封されていたという事です。検品は特にしていないようでした。10本50ドルで、本物の説明書が入った箱でした。


 GM管のカソード側からは信号を取り出します。測定の基本原理はグラウンドとアノードの間に400V前後の直流電圧をかけておいて、管のアノードとカソードの間に電流が流れると、カソードとグラウンドの間にはさんだ100KΩの抵抗のところに電圧が発生するという仕組みです。この信号は、GM管の中央部の2ミリ径くらいの箇所にβ線、γ線が当たったときに、雪崩現象をおこして、GM管が導通したように振る舞うために生じるのですが、電流を上述のバイアス抵抗で数10µAに制限してあるので、それが100KΩの抵抗を流れるときには100KΩ×数10µA=数ボルトという計算になります。この管には15〜20µAを流す条件が理想なので、観察されるパルス高が1.5〜2Vなら理想的という事になります。それをDSOnano2という簡易、ポータブル型デジタルオシロで観察しながら試行錯誤を行いました。


 GM管のカソードからはオレンジ色の線でブレッドボード上に入っています。つまり高圧部分はブレッドボード外で、低圧部分はブレッドボード上にと分けています。入力は2SC1815トランジスタのベースに直接入り、圧電素子を鳴らしています。同時に抵抗とコンデンサで積分してLEDを光らせます。


 実験結果からは2つの10000pFはただの邪魔でした。ない方がパルスがよく見えます。これはGM管のパルスが短いので高用量のコンデンサに蓄電されているとまるでノイズの様に吸収されてしまうからでしょう。容量がある程度小さい方がパルス幅を広げるようで、抵抗の前段に4700pFあればこのインバーターでは十分に平滑化されていました。バイアス抵抗は1MΩ〜1.5MΩで、インバーターへの入力電圧は2.4V程度が良く、これは1.8Vの3端子レギュレーターのグラウンドにVf 0.6Vのダイオードを噛ませたときに得られました。入力電圧が高いと出力も高くなり、500-600Vを越えたあたりで勝手にカウントを繰り返し、暴走します。このときは線源への反応も確かにあるけれど、バックグラウンドのカウントが大きすぎるので、検出に有利とは言えない条件です。この後、この暴走が起こらない範囲に電圧を調整することになります。

 

 最初の回路は定数もなにも適当にブレッドボード上に展開しました。本来待機中にGM管に電流のリークがなければ、100KΩの両端には電圧は生じないはずですが、私の実験では数ボルトが常に生じ、そこにマイナスのパルス電圧が発生することでカウントを知るようにしていました。この数ボルトのバイアスを除くには容量の小さいコンデンサを直列に入れてハイパスフィルターにすれば良いのですが、当時はGM管の電流量を拾うことで、放射線のエネルギーを測れそうな、電流モードの事が説明書に記載されていたので、管電圧390V、管電流20µA弱を目指すため、ハイパスフィルターはあえて設けませんでした。


 プロトタイピングというのだそうですが、プロトタイプを製作し実験を繰り返しながら回路の理解を深め、最終的な製作につながるという発想をPrototyping LaboというArduinoの解説書に見つけました。Arduinoはワンチップマイコンをつかった開発環境で、私のMacOS Xで問題なく動作します。過去にApple IIで、6502の機械語、拡張ボード開発、アセンブラ、BASICを使い、今もAppleIIシリーズを10台以上ストックしていながら、ホームオートメーションに全く活かせなかった理由は、ビンテージのコンピューターに無理をさせて本体、電源を壊す事を恐れたからです。しかし、簡単便利なArduinoの登場で、250円のCPUの破損で済むなら何でもやってみようと考えて、電子工作、ハンダ付けを本格的に再開しました。


 C言語に初挑戦、武蔵野電波のArduino早見表を常に開き、ヘルプとExampleを見ながらというスローペースで、先にワイアレス換気口と、電気床暖房専用電力記録計をつくり、今回はガイガーカウンターに挑戦しましたが、この時点ではまだ、Arduinoにつながっていません。しかし、電力記録計では、RTCのキューにより1MbitEEPROMに定時記録し、任意の時点の記録をeDispというマイコン内蔵グラフィック液晶表示器に表示するというのが既に出来ていたので、今回はそれを応用することで、トントン拍子に開発を進めることができました。

 

 次からはこの回路を磨いていきます。

 

2011年4月の試行錯誤

2011年5月26日木曜日

 
 
Made on a Mac
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