薪ストーブ研究室

 
 
 
 
 
 

 生木を薪にする。割って、天日に干すだけの簡単な事なのに、乾燥に1年半以上の時間がかかるのはなぜか。広葉樹のヤニと呼ばれる水溶性樹脂が雨に流され、丸太の木口の導管が開く事が乾燥を良くする理由かもしれません。

 そのような事を真面目に考えているブログが「薪ストーブは燃えているか」です。良い機会ですので、私の雨ざらし研究も公開します。


 実験の方法は、平成18年10月上旬に伐採された公園樹を用いて、1か月間風通しの良い屋外に地面から離して井桁に積み、屋根をせず秋の空に放置しました。樹種は栗、白樺、ニセアカシア(ハリエンジュ)で、直径20センチ程の太枝の3〜4つ割を1本ずつ、アカシアは直径10センチほどの樹皮をつけたまま割らない細枝も用意しました。実験には対照群が必要なので、同時に伐採された同一樹種、同一の割り方で、ほぼ同じ重さの薪を2本用意してから、ランダムに雨ざらし群と対照群に分け、対照群は最初から屋根のある薪棚で乾燥させ、1か月後に両者を薪棚に移動しました。写真の右の文字を書いてある4本とその下の井桁積みが雨ざらし群を薪棚に移したもので、左が非雨ざらし群です。非雨ざらし群には10センチの半割りも測定に加えました。重量測定はバネ式手秤で10g単位です。


 結果ですが、自由に雨に当てているその間にも薪は徐々に乾燥していました。樹種・形態により幅があり、雨ざらし群の重量減少率は最低3%(ニセアカシアの直径10センチ、樹皮付き細枝)から最高22%(栗の4つ割)。非雨ざらし群は減少率10%、後者は24%ですから、雨にさらしたものより、さらさないほうが乾燥が進んでいます。


 ところが、11月5日に取り込んで、屋根のある薪棚で乾燥を始めると、雨の水分が気化するのに合わせて、薪の乾燥がぐんぐん進みました。約半年経つと両者は並び、その後逆転します。約7カ月後の6月27日には、ニセアカシアの皮付き枝で1%、栗で10%雨ざらし群がより軽くなりました。外見からは虫食いも無いので、これは乾燥が進んだと考えて良いでしょう。ただし、白樺だけは特殊で、乾燥したとは言い切れず、雨ざらし群の方が腐朽が進んだだけかもしれません。白樺のボケの速さは特筆もので、割らずに数日置いただけでボケ(腐朽菌による腐朽)が進みます。後々割ってみるまでは乾燥が進んだかどうかは言えない、そういう樹種です。
 

 グラフは雨に濡らす前の10月時点の重量を100%として表現しましたが、樹種等の条件によって乾燥速度に差がありながらも、雨ざらし群においては、薪割り後からほぼ直線的に重量が低下している様子が見てとれます。非雨ざらし群は最初の1か月に急速に乾燥し、以後は緩やかです。これが雨ざらしの効果と言えましょう。


 ただし、最終的な減少率には樹種による差が見られました。ニセアカシアが雨ざらしをしても重量比で1%しか乾燥しないとすると、雨ざらしのために、場所を変えて2回の積み上げ作業をする手間には見合わないかもしれません。かといって、井桁に積んだまま移動せず、雨ざらし後に屋根をかけるというやり方では、薪置き場の下の地面がすっかり濡れてしまうので、雨ざらし後の乾燥が遅れるでしょうし、虫の温床にもなります。地面の乾燥は薪棚の性能を決める重要な要素なのです。


 加えて、本実験ではカビの発生という問題がありました。写真の木口をご覧ください。実験中の気候は、梅雨や秋の長雨ではありませんでした。また秋の北海道は気温も低く、ストーブを焚く日もあったほどです。冬の雪も極端に少ない年で冬期間の乾燥条件は良好でした。このように湿気が少なく低温という条件でしたのに、写真右側の雨ざらし群では、木口にはタンニンの色だけでなく、クロカビ、アオカビが見られます。見栄えの綺麗さは雨ざらしをしない左側のほうが上です。このカビの発生は雨ざらしの際中に始まっていました。棚に積んで右側にだけ雨が当たっていたという事ではありません。


 世には雨ざらししたほうが虫がつかないという説もありますが、これは私の実験ではわかりませんでした。カビは、実は雨ざらしの方が出にくいというお話が、きこりんさんのサイトの「雨ざらしのすすめ」にあります。我々が悩まされるアオカビは、樹皮下の形成層の部分を選んで生えます。乾燥や低温で減りますが、冬に家の中に入れると勢いを取り戻す事もあります。菌の栄養源と思われる木口の樹液を雨で流してしまえば、カビや虫の問題が減る可能性は確かにありそうです。私の実験ではその期間が短く、雨が少な過ぎたのかもしれません。本州では、木を秋冬に伐採して、薪割りし、梅雨までずっと雨ざらしをして、土用の頃から薪棚に収めるというやり方があるそうですが、そういう雨ざらしでは梅雨時の長期間の加湿によりカビが問題になるかもしれませんし、逆に減る可能性もあると思われます。 きこりんさんの方法では、確かにカビが減っています。


 いずれにせよ、この種の実験は、雨と気温の条件だけでなく、薪棚によって異る乾燥性能や、もともとの樹木に含まれる水分量の違い等、色々な条件で結果が変わるでしょう。私の実験方法、私の薪棚では、栗は雨ざらしに向いており、アカシアはやや良い程度、白樺はその性質上判定を保留、という結論でした。今後も重量が減らなくなるまで測定を続けて参ります。並行して行ったアカシアの割り方の実験では、皮付きの細枝と4つ割の太枝では太枝の方が乾燥が良く、細枝を半割りにした場合はさらに乾燥が良い事も証明できました。その差は重量比で6%ほどでした。ですから、アカシアは雨ざらしの有無よりも、もうひと割りをするかしないかのほうが、乾燥に影響すると言えるかもしれません。

 

雨ざらし効果

2007年7月23日月曜日

 
 
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